稀代の作品となるか?オッペンハイマー キリアン・マーフィー、ロバート・ダウニー・Jrの名演はもちろんだが人の抱える負の感情表現がすごい!

1 個月前
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(基於 PinQueue 指標)
オッペンハイマー
監督/クリストファー・ノーラン
出演/
キリアン・マーフィー
エミリー・ブラント
マット・デイモン
ロバート・ダウニー・Jr.
フローレンス・ピュー
ジョシュ・ハートネット
ケイシー・アフレック
ラミ・マレック
ケネス・ブラナー
トム・コンティ
ゲイリー・オールドマン


アメリカでの上映で大きな反響を呼ぶとともに題材が原爆の父とも言われるオッペンハイマーということもあり話題となった作品。そもそも日本で上映すること自体ができるのか?かなり心配されたこの作品だがアメリカ本国から8ヶ月遅れでついに 上映となった。
配給のビターズエンドさんには心から感謝です


この映画は3つの時間軸が描かれている

1つは原爆開発に向けて、物理学者として邁進し続けるオッペンハイマー自身の物語
これは オッペンハイマー視点で描かれカラーで映し出されています サブタイトルはFISSION(フィジョン)
2つ目はてルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)視点の物語で議会公聴会の背景を描いている
こちらはモノクロでをサブタイトルはFUSION(核融合)
3つ目はホテルの狭い部屋でおこなわれているオッペンハイマーの聴聞会 カラーで描かれている

その3つの時間軸で様々な人と出会い、女性関係であったり当時のアメリカであった共産主義への見かたなど細かに描かれている。
ただ、ドキュメンタリー感はあるものの脚色もいろいろとなされており、この映画のがすべて真実ではないことは原案小説をよめばよく分かる。
故にこの映画はオッペンハイマー側の視点で描かれていることを大前提として観るべき作品であり、この映画がすべて真実ではない事は知っておくべき部分だろう。

そういった部分を踏まえてクリストファー・ノーランからみた、オッペンハイマーという人を描いている映画と言える。

映画はとてもキャラクターが多く、全員をすべて知ってる人は専門家ではないかと思う
それでも知っておくべきポイントとしては
1)オッペンハイマー自身は共産党、共産主義者ではなく、弟や元妻、愛人が共産党員、元共産党員だった
それ故に赤狩りの対象となった

2)ルイス・ストロースとの確執は、映画前半のアイソトープ輸出に反対するストロースを無視して
皮肉なコメントでストロースを笑い者にしたシーンがあるので観ておくべき
水爆開発反対などもふくめ機密アクセス権取消処分につながり公聴会につながっている

3)劇中、狭い部屋で行われる聴聞会はストリーズがオッペンハイマーを社会的立場を失わせるために
FBIにオッペンハイマーの身辺調査をおこなわせた。
オッペンハイマーは聴聞会の黒幕がストローズであることに興味はないが
妻のキャシーらはストローズが黒幕だと感づいている 2人の温度差が劇中でも明確になっている

4)WW2、太平洋戦争が始まった当初のアメリカ大統領はフランクリン・D・ルーズベルト
原爆開発のマンハッタン計画を承認するのもルーズベルト大統領
ただ完成した原爆投下を承認したのはトルーマン大統領

5)ラミ・マレック演じる科学者デヴィッド・ヒルの告発は社会的にも大きな注目を集める
告発の言葉一つ一つが重みがあるので大注目


原爆を開発したオッペンハイマーが題材ということもあって、世界で唯一の被爆国である日本の国民として観るかどうか悩む人も少ない無いと思う。

やはり「原爆」というキーワードがあるとエンターテインメント性は感じられにくいだろう。
だが、実際に上映されたこの作品を見ると オッペンハイマーの人生を描いている色合いを強く感じるとともに、「原爆」が題材になっているからという1点で この映画を見逃すことがいかにもったいないか?ということを感じてしまう。

確かに原爆は世界で最も人を不幸にする武器の一つであり 被爆国の日本で生活をしている一人としても原爆を容認するわけにはいかないだろう

この映画の中でオッペンハイマーは原爆の開発に携わり実現に向けて奔走し 様々な形での物理学者としての意見を述べ 、核爆弾開発の実験成功に向けて関与している一方で 原爆による未来への危険という警笛を鳴らし続けた人であることも描かれている。

忘れてはならないのは、当時が第二次世界大戦中という 人類史上においても最も取り返しのつかない 戦争をしてしまったアメリカ国内であるということ。

戦時中という独特な空気によってナチス・ドイツに負けない開発をする
終戦後のソ連とのパワーバランス
といった国際的な不安要素から、抑止力という都合の良いワードで開発が進められた原子爆弾に至る流れはとても緊迫感ある展開で描かれている。

また戦争による狂気は民衆の熱狂的な姿にも現れており、原爆により相手国をどのような形にしたか?ということはメディアに寄って発表されじ、大統領の演説でも明確には伝えられない。

ただ、敵国/日本に新兵器によって大ダメージを与えたこと話す大統領の演説に、狂喜乱舞するアメリカ国民の姿を描いているのは、クリストファー・ノーランからみた「その当時の異常さをみせる」という演出だろう。
それは「戦争を二度と起こしてはならない」というようにも見えてくる。
ここは日本国民として受け入れがたいのシーンでもあるし 原爆によって大量の人命が失われたことを歯牙にもかけていない アメリカを表す象徴的なシーンだと思う。
だが、戦争というものは そういったものであるということでもあるのだろう。


話を少し戻すとして、
オッペンハイマー自身はナチスドイツが原爆を作る第一歩を踏み出したことを知ると同時に 実現するために協力しプロジェクトに参加するということに関しては、科学者として 物理学者として好奇心をそそられ興味ある刺激されたこと他ならないだろう

その一方で 原爆開発の途中でその危険性とその後に続く「水爆」という あまりにも恐ろしい武器の開発に結びつく事実を認識してからは、彼自身なりに原爆自体を不安視し 疑問を持ちはじめる。
その結果、オッペンハイマーという個人としては 後々 原爆に対しては否定的立場を取るのにつながっている。

オッペンハイマーが右も左もない考えを持ち 好奇心で邁進する姿はいろいろ描かれている。 それは共産主義の人間との関わり方であったり、共産主義を全面的に否定をしない部分においても それは描かれている。

キリアン・マーフィーの素晴らしい演技によって このオッペンハイマーはドキュメンタリー的であり、会話劇であり、そして1人の人間の内面をえぐる演出により、素晴らしい作品になっている




この映画の中では 広島 長崎 という都市名は出てきて 原爆を投下したという事実は語られるが 実際に被爆した人のシーンが流れないということで 反原爆の方々から「シーンとしては入れるべきだ」という意見もあるかもしれない
しかしが それを入れてしまうことで この映画の色合いが 偏ってしまうことを避けたとも言える。
それはクリストファーノーランが、この作品を、あくまでも映画(エンターテインメント)として中立的(基本反戦)に仕上げる意思が合ったと思われる。

しかし原爆の悲惨さは 主人公のオッペンハイマーが 現地レポートの映像を一瞬、見ただけでその後は スクリーンを見ないという細かな演技にも表れている。
周りの関係者は劇中で流れていると思われる 広島での惨劇の様子の映像を食い入るように見ているのに対してオペンハイマーは 見た瞬間に 目を伏せ 自ら開発した原爆が引き起こした この事実を 言葉にできない…という表情にも見えるシーンが有る。

このシーンが入っているだけでいかに彼が今後 水爆開発の反対意見を述べ続けていったのかというところも 繋がっている重要なところだったという


何度も言うが このオッペンハイマーという映画は原爆開発をした彼の人生を描いているものであり その人生の中で様々な葛藤もあるが 物理学者としての 責任感 そして物理学者として可能性という部分に没頭し、その結果、自分が作り上げたものに対し 恐怖を抱き 未来に対して 警笛を鳴らす…その結果、彼自信が赤狩りの対象となりさまざまな批判をうけることになり、彼自信の心理面も非常に細かく描かれている



あくまでも 原爆開発に至る流れは物理学者として他国に負けない。他の物理学者に負けない気持ちが非常に強かった しかし実際に開発を続け、実際に引き起こされる事態(被爆や被害)を冷静に知ることで、オッペンハイマー自身が 原子爆弾の持つ恐怖に一番理解を示し そして大統領に対して原爆に対して使用自体を踏みとどまわせるような意見を述べたということを歴史的背景もあることも知るべきだろう。


原爆を開発した人の映画だから見ないという短絡的な発想ではなく あくまでも 1人の 物理学者の人生が一つの開発によって、彼が抱え続けた「苦悩」を描いている映画なのだ
原爆賞賛でもなければ
戦争賛美でもない
人間が持つ二律背反の心理と心情を描いた映画


最後に改めて
このオッペンハイマーという映画は
原爆開発を称賛するものでもなかれば
当時の原爆投下を正当化するものでもない
また
登場するオッペンハイマーをはじめとする史実の人物の真の姿を描いたものではない

当時のアメリカがどのような空気感であり
戦争後のことを考え、共産主義との戦いを視野に入れ、冷戦への扉を叩く直前だったこと
そしてオッペンハイマーは不当な評価を受け公職から追放されることになるが、
2022年12月16日になって処分撤回(名誉を回復)されたことなど
そういった歴史的背景をきちんと調べて、知ってみると、より深さがわかる映画だと思う。
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